はじめに
「AIエージェントを作ったはいいけど、結局ゼロから全部書き直しになってしまう…」「チームで使いたいのに、ワークフローを誰かが変えると全部崩れる…」そんな悩みを抱えたことはありませんか?
Difyの最新プレリリース v1.14.0-rc1(2026年2月公開)は、そうした課題を根本から解決する「Agent × Skills」アーキテクチャを導入しました。エージェントに"再利用可能なスキル"を持たせるという、まったく新しいAIワークフロー設計の考え方です。
⚠️ v1.14.0-rc1はプレリリース版です。安定性・互換性は保証されていないため、本番環境ではなく検証環境での利用を推奨します。
なぜ「Agent × Skills」が必要なのか?
従来のDifyエージェント開発では、こんな問題がありました。
| 課題 | 具体的な問題 |
|---|---|
| 再利用性の低さ | 似たような処理を別エージェントに持たせるたびにゼロから書き直し |
| メンテナンスコスト | 共通処理を変えると全エージェントを個別に修正 |
| 拡張性の限界 | 新しいツールや手順を追加するたびにプロンプトが肥大化 |
| チーム共有の困難 | 属人化したワークフローを他のメンバーが理解・修正しにくい |
「Skill(スキル)」とは、エージェントが動的に読み込める専門手順書パッケージのことです。料理に例えるなら、エージェントは「シェフ」で、スキルは「レシピカード」。スキルを入れ替えるだけで、同じシェフが和食にも洋食にも対応できるようになります。
v1.14.0-rc1の4つの機能
①:Skill Editor + @ツール呼び出し
「再利用可能なSOPブロックを作り、@記法でツールをインライン呼び出し」
Skill Editorは、スキルを定義するSKILL.mdファイルをGUI上で作成・編集できるエディタです。
スキルの基本構造は以下のようなYAMLフロントマター+Markdownです。
---
name: email-writer
display_name: Email Writer
description: Drafts and sends emails using contact files, templates, and email tools.
tags: [email, productivity]
version: 0.1.0
visibility: internal
---
## What this skill does
- Generates an email subject and body from a short task
- Looks up recipients from contact files
- Sends emails using supported email tools
## Inputs
- **task** *(string)* — what the email should do
- **recipients** *(optional)* — contact IDs or email addresses
@記法によるインラインツール呼び出し
スキルの中から @send_email のように @ツール名 と書くだけで、登録済みツールをインラインで呼び出せます。Gmail・Slack・Webhookなど、接続済みのツールはすべて@で呼び出し可能です。
スキルフォルダの構造(Progressive Disclosure パターン)
skills/
├── _index.json # スキル一覧(名前と説明のみ)
├── email-writer/
│ ├── SKILL.md # 詳細手順書(エージェントが必要時のみ読み込む)
│ ├── prompt.md # プロンプトテンプレート
│ ├── output.schema.json
│ ├── toolmap.yaml
│ ├── examples.json
│ ├── contacts.xlsx # バンドルリソース
│ └── email_templates.xlsx
└── support-triage/
└── SKILL.md
Progressive Disclosure(段階的開示)パターンが重要なポイントです。エージェントは最初に_index.json(スキル名と説明のみ)を参照し、該当スキルが必要になって初めてSKILL.md全文を読み込みます。これによりコンテキストウィンドウの消費を最小化します。
セキュリティ対策
| レイヤー | 内容 |
|---|---|
| コマンドホワイトリスト | 承認済みコマンドのみ実行可能 |
| ディレクトリサンドボックス化 |
パストラバーサル攻撃を_safe_join()で防止
|
| リソース制限 | メモリ256MB・ストレージ100MB |
| パーミッションモデル | マニフェストで必要権限を明示宣言 |
②:新Agent Runtime(サンドボックス実行環境)
「分離された安全な実行環境でエージェントが動作」
v1.14.0-rc1では、エージェントの実行エンジンが完全刷新されました。
Agent Modeでは、マルチステップの思考・実行サイクルを1つのエージェントが自律的にこなします。画面上部の GRAPH / SKILLS タブを切り替えることで、ワークフロー全体図(グラフビュー)とスキル一覧(スキルビュー)を直感的に行き来できます。
Command + Upload File to Sandbox(ファイルをサンドボックスへ投入)
ワークフロー内に「Upload File to Sandbox」ノードを追加することで、ユーザーがアップロードしたファイルをサンドボックス環境に直接投入できます。
START → USER INPUT → UPLOAD FILE TO SANDBOX → [次の処理へ]
これにより、ExcelやPDFなどのファイルをAgentが安全に処理するパイプラインが構築できます。
Step 1:ワークフローに「Upload File to Sandbox」ノードを追加
Step 2:入力変数としてfiles Array[File]を設定
Step 3:次ステップに分析・変換ノードを接続
③:Pull a Variable(動的変数アセンブリ)
「会話履歴からStructured Dataを自動抽出」
「Pull a Variable」は、LLMとの会話履歴から構造化された値を自動抽出し、後続ノードへ渡す仕組みです。
たとえば、Agentが名前・画像・PDFを収集するやりとりをした後、Send Gmail MessageノードでAssemble variablesを選択すると、会話の中からname・images・pdfといった変数を自動的に抽出してメール本文に組み込めます。
USER INPUT → AGENT(会話でデータ収集)→ SEND GMAIL MESSAGE
↑
Assemble variables(@Agent から抽出)
Before(従来): 変数を手動でマッピング → ノードが増えるたびに設定が煩雑
After(v1.14.0): Agentの会話履歴を直接参照 → ノード間のデータ受け渡しが自動化
複数のAgentノード(Agent 1・Agent 2・Agent 3)の出力をまとめて@記法で参照できる点も強力です。
④:Collaboration Beta(チーム共同編集)
「リアルタイム共同編集+コメント+@メンション」
Collaboration Betaでは、複数のチームメンバーが同一ワークフローを同時編集できます。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| リアルタイム共同編集 | 複数人が同じワークフローを同時に編集可能 |
| コメント機能 | ノードや変数にコメントを追加してレビュー |
| @メンション |
@usernameでチームメンバーへ通知
|
| 変更履歴 | 「View cached variables」でデバッグ |
⚠️ セルフホスト環境の注意点: Collaboration機能にはWebSocket設定が必要です。.envにCOLLABORATION_ENABLED=trueとWebSocketの設定を追加してください(Collaboration docs 参照)。
新機能まとめ比較表
| 機能 | 従来(v1.13以前) | v1.14.0-rc1 |
|---|---|---|
| スキル再利用 | ❌ エージェントごとに個別実装 | ✅ SKILL.mdで共有・再利用 |
| ツール呼び出し | プロンプト内で手動記述 |
@send_emailなどの@記法
|
| ファイル処理 | 外部連携が複雑 | Upload File to Sandboxで直接投入 |
| 変数受け渡し | 手動マッピング | Pull a Variable(会話履歴から自動抽出) |
| チーム編集 | ❌ 単一ユーザー | ✅ リアルタイム共同編集(Beta) |
| 実行安全性 | 基本的なサンドボックス | 強化サンドボックス+コマンドホワイトリスト |
実際に試すには
Step 1:ライブデモで体験
https://skills.bash-is-all-you-need.dify.dev/
Step 2:プレビュードキュメントを確認
https://docs.bash-is-all-you-need.dify.dev/
Step 3:既存のDify環境をv1.14.0-rc1へアップデート(検証環境のみ)
Step 4:StudioでGRAPH/SKILLタブを確認 → 新しいSkill Editorが利用可能に
Step 5:skills/_index.jsonを作成し、最初のスキルを定義する
Step 6:ワークフローでAgentノードを配置し、@ツール記法を試す
💡 テンプレートから始めるのがおすすめ
テンプレートマーケットプレイス(https://marketplace.dify.ai/templates)に公式テンプレートが公開されています。ゼロから作るより、既存テンプレートをカスタマイズする方が素早く試せます。
注意事項・制限事項
- v1.14.0-rc1はプレリリース版のため、本番運用への適用は正式版リリースを待つことを強く推奨します
- セルフホスト環境でCollaborationを使う場合、WebSocket設定が別途必要です
- スキルのリソース制限:メモリ256MB・ストレージ100MB
- Gitリポジトリまたはファイルアップロードでスキルをインストールできますが、スキルの管理はワークスペース単位です
まとめ
Dify v1.14.0-rc1の「Agent × Skills」は、AIエージェント開発のパラダイムを大きく変える機能です。
- Skill EditorでSOPをパッケージ化し、複数エージェントで再利用
- Sandboxed Runtimeで安全な実行環境を確保
- Pull a Variableで変数受け渡しを自動化
- Collaboration Betaでチーム開発を実現
手順は以上の通りですが、実際に自社環境でDifyを構築・運用し続けるには、バージョンアップへの追従・セキュリティ設定・Webサーバー設定・チーム権限管理など、想像以上に幅広い工数がかかります。特にCollaboration機能やサンドボックス周りは、設定ミスがセキュリティリスクに直結するため、専門的な知識が必要です。